「よく、これがlily crownだってわかりましたね」
視線を春斗さんに戻すと、彼は意味深な笑みを浮かべた。
「まぁね。結構、詳しいんだよ、俺」
……それは、一体何処から仕入れた知識でしょうか?
女の人が女性ブランドに詳しいのはわかるけど、何故彼が詳しいんだろうと思わずにはいられない。
やっぱりあれかな。
女性との交際やらなんやらで仕入れた知識とか?
私に水を掛けた女の人の事を思い出して、自分の考えに妙に納得してしまう。
「そ、それは凄いですね」
……主に女性との交際遍歴辺りが。
いつの間にかそれが事実であるようにすら思えてきた私は、ついつい頬を引き攣らせつつ、視線を彼から窓の外へと移した。
いつの間にかギュッと握りしめていた鞄。
車に乗ってすぐに返してもらったその中には、彼から押し付けられたカードが入っている。
結局、何度返そうとしても受け取ってもらえなかったそれは、いまだに何に使うものかわからず仕舞い。
でも、さっきの彼女が、このカードを春斗さんに返す時の剣幕からして、彼の女性遍歴に何らかの関わりがあるもののような気がする。
そう思うと、例え使わなくても、持っている事自体がまずいような気がして来てしょうがない。
やっぱり、別れ際とかに彼の気がちょっと逸れた隙を見計らってこっそりと車の中にでも置き去りにするべきかな。
正面から返そうとしても受け取ってもらえないのはもう実証済みだから、彼には悪いけど、少しだけ卑怯な手を使わせてもらおう。
そう心に決めて、鞄を握ってた手から力を抜く。
ひとまず、決行するのは今じゃない。
これからどれ位彼といるかわからないこのタイミングで、置き去り作戦を決行すれば、途中彼に気付かれて、返された揚句、用心されて置き去りに出来なくなる可能性がある。
そうならない、抜群のタイミングを見計らった、これは彼の許へと返そう。
そう心に誓った。
