KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―




私に似合うとしたら黒だけど……。


手に黒と白のニットワンピを持って、悩み込んだ。

lily crownらしさ満点の白のニットはまさに私の好み。

黒もそれなりに可愛いし、素敵だって思えるけれど、どちらが欲しいかと言えば、私は間違いなく白の方が欲しかった。



似合わなくても欲しい物を選ぶか、1番ではないけど可愛いと思っていて、自分にもそれなりに似合う物を選ぶか。

高い買い物になるからこそ真剣に悩んでいた。


でも、そんな私に、声を掛けてきた店員さんは、悪気なくこう言った。



「白も素敵ですけど、お客様の大人っぽい雰囲気なら、断然黒がお薦めですよ」……と。


自分でも思っていた事だからこそ、納得はしてたけど、「やっぱり」という落胆の思いは消せなかった。



好きなブランドに似合わない私。


憧れの私になかなかなれない私。



人間、生まれ持ったものってやっぱりあるから、仕方ないのはもう十分わかってるけど、やっぱりちょっとは恨めしい気持ちがある。

神様はなんで、私を私の望み通りのフワフワしたイメージの可愛い女の子にしてくれなかったのかって。



店員さんに気付かれないように、小さく溜息をついて、白のニットワンピを元の位置に戻した私は、lily crownには珍しい雰囲気の黒のニットワンピを鏡の前であてて見た。


きっと、これが私の妥協点なんだ。


憧れの甘い雰囲気の女の子にはなれないけど、諦めきれずに少し甘さを残したデザインの服を選んだ。



いまだにあの白のニットワンピを着れる自分になりたいとは思っているけれど、この黒のワンピは黒のワンピで自分の身の丈にあっていて、尚且つ憧れの要素も入っているものという意味で気に入っている。