KINGDOM―ハートのクイーンの憂鬱―



「『けど……』何?」

言い淀んだ私に、彼は不思議そうに首を傾げた。

彼は、lily crownがどういう系統の服を売ってるブランドか知っているのだろうか?

知ってて、尚且つ、私に勧めてくれようとしているのだろうか?




「……何で、lily crownが好きってわかったんですか?」

結局私は、頭の中にいくつも浮かんだ疑問符の中から、もっとも無難な質問をする。



だって、「好きだけど、似合わないでしょ?」とか言ったら、卑屈っぽくなってしまうし。

まぁ、実際、そういう所は私のコンプレックスにはなってるんだけど。



「あぁ」

彼は私の質問で『けど……』の理由に納得してくれたらしく、小さく数度頷いた。


「それは、簡単だよ。だって、今、君が着てるワンピースってlily crownのだろ?」

「え!?」


彼の言葉に、慌てて自分の着ている服を見下ろす。

私の着ている、今は濡れていてその質感はわからないけど、本来ならフワフワした素材の黒のシンプルなニットワンピ。

それは、彼の指摘通り、以前にボーナスが出た時に奮発して買った、lily crownの物だ。



だがしかし、買った自分が言うのもなんだが、これは正直あまりlily crownっぽくないんだよね。


ショップでこれを見つけた時の情景が頭に蘇ってくる。


ショップでいくつもの服がハンガーに吊るされ並んでる中、見つけたこのニットワンピは、白とベビーピンクと黒の三色あった。

白とベビーピンクは、まさにlily crownって感じの雰囲気を醸し出していたけど、その中で、妙にはっきりした色合いのこの黒だけは、何だか浮いている印象だった。