「ところで獅堂さん。今、私達は何処に向っているのでしょうか?」

人通りの多い街中を車は走っているから、変な所に向かっている訳ではないと思うけど、やっぱりそこは気になる。

何処に行くかもわからないまま、車を降りる事も出来ない状態というのは、相手が信頼できる相手でない以上、恐怖以外の何者でもないのだ。



「そうだな。ひとまず、その獅堂さんってのをやめて、春斗って呼んでくれたら教えてあげるよ」



……は?

一体全体、何様ですか!?と言いたくなるような上から目線の言葉に、思わず目を見開いて、前方を見据えたままの彼の横顔を凝視してしまう。



いや、だから、私が被害者で、貴方が加害者なんですってば!!

要するに、普段貴方がどんな偉い地位にいたとしても、今は私の方が立場的に上なんですって!!



「あの、獅堂さ……」
「春斗」

チラリッ一瞬向けられた視線に、不満の色が浮かぶ。

これはもう、『春斗』と呼ぶまで彼は満足しないという事だろう。



正直、折れてやる筋合いは全く持ってないのだけど……今は、彼がハンドルを握っている以上、きっと従うしかないんだろうな。


何とも理不尽な事だ。