「有難うございます。

 傀儡絵巻みたく……さまざまな現実を綴っていこうと思っています。

 今は……自分があるようで、流されている人たちが多い時代ですから。

 だからこそ……自分を見つける旅に誘えるような……。
 
 そんなシチュエーションで演出してみたいんです。

 次もお願いします」



番組の収録後、スタッフとの話し合いを済ませて
腕時計をチラリと覗き見る。



少しずつ近づいてくる咲との約束の時間。


ボクが成すべきケジメの時間。



咲はまだ姿を見せない。


今日、咲の存在をスタッフの前でも公にする。


自分で決めているように見えて、
実は流され続けていたボク自身。


そんな思いからの卒業をこめて
……咲の想いながら……完成させた曲。


この想いに込められたボクの全て
……傀儡幻想……。



その完成していく時間を一緒に共有したいと
願うのはボクのわがまま?。


ボクの大切な願い。







スタジオの自販機の前に座り、珈琲タイム。


自動で豆を挽いてくれて
一杯一杯ていねいにドリップしてくれる自販機。

お気に入りの一杯を体に浸透させる。





その時、血がボクにヒジョンを伝えた。





『……桜鬼【おうき】……』



無意識化の彼女が必死に紡ぐ、
ボクの最後の名が頭の芯に響く。

契りを交わしたもののみが
ボクに紡げる名前。


伝わるのは、スタジオの前の情景。

YUKIを出待ちするファンの集団。


ふいに近くにあった硝子窓に手を触れて、
そこに神木が伝えるビジョンが映し出される。