司が私にとって大切な存在だから。



その日も部活を終えると自主練習の為に、
学院から少し離れたスクールのナイトコートで
龍王寺さんと二時間くらいガチで打ち合う。

そしてコート整備を済ませて、
更衣室で着替えを済ませた。



『また何時でもいらっしゃい。

 一花さまに宜しく伝えて頂戴』



そうやって送り出してくれた
スクールを後にして電車を乗り継いで帰宅する。

思いっきりラケットを振って、
テニスが出来るのは、この場所だけ。


テニスから離れられない理由、
ちゃんとあるんだ……。


テニスは親子の思い出だから。


テニスをしている間は、
その時間を忘れないでいれる。



私を捨てたお父さんの温もりも
お母さんの温もりも
蘇らすことが出来るから。



それに……
私がテニスを好きになったから。




だから好きなものを
諦めるなんて出来ない。





明けない夜はない。




ちゃんと光を掴んで見せるから。




自分自身の暗闇を切り裂いて。





駅に到着すると携帯から自宅に電話をして
お祖父ちゃんに最寄駅まで帰ってきたことを伝える。




『お祖父ちゃん、和鬼と少し話して帰るので
 自宅に寄らずに御神木の方へ行きます。

 おやすみなさい』





そうやって電話を終えると、
御神木までジョギングして帰っていく。



自宅と神社に続く山のふもと。


坂の入り口に止まる
見覚えのある大きな車。