ステージが終わって楽屋に戻ると、
依子さんと咲が姿を見せる。




ボクが挨拶回りをしている間に
控室に入室したようだった。




「YUKI、お疲れ様。

 今日のステージも幻想的で
 とても素敵でした。

 お父様もさぞ、お喜びと思いますわ」


依子さんは嬉しそうに微笑む。



嬉しそうに微笑む依子さんとは裏腹に、
咲はずっと俯いていた。



「咲」


依子さんに促されて言葉を
躊躇う【とまどう】ように紡ぐ。


「あっ、……あの……。

 YUKIさんは……和鬼……って
 呼ばれてませんか?」


ボクの真名【まな】の音【いん】を咲の声が紡ぎだす。



「あらっ、咲。
 何を言ってるの。

 YUKIの本名は由岐和喜と言うのよ。
 だから……和喜とプライベートでは呼ばれててよ」


得意げに依子さんは咲に諭す。

だけど……依子が紡ぐのは和喜。

そして、咲が紡ぐのは……
鬼としてのボクの名、和鬼。


「今日は素敵な時間を有難うございました」


咲は声を出してボクに話しかける。

その声は……途中で意図的にかき消され
口形のみで伝えられる。




『また……『桜の木の下で』待っています。
 
 ……和鬼……』






ボクの血が
激しく呼応する……。