咄嗟に名乗った、
由岐和喜(ゆき かずき)の名前と共に。
そうして彼女とボクの
芸能界での生活が始まった。
二人で築き上げたボクの居場所。
そして、その努力が実って今、
ボクはYUKIとして大勢のファンと呼ばれる
人と触れ合う。
求めた時間なのに満たされない思い。
彼女たちが見ているのはYUKI。
ボクが受け止めて欲しいのは、
そう和鬼としてのボク。
咲は、YUKIではなく、
和鬼を見つけてくれた。
それがどれだけ、
ボクが嬉しかったか。
だけど……ボクは
その温もりに自ら蓋をした。
ボクは鬼。
咲は人。
鬼は人に近くなりすぎてはいけない。
いやっ、そんなのは大義名分。
ただこれ以上、ボクが弱くなってしまうのが
怖かったんだ。
だからボクは咲から逃げるために、
咲の記憶を封印した。
YUKIの記憶だけを残して。
YUKIの記憶までを
消すことが出来なかったのは
ボクの甘さ。
何時の世でも決断出来ない
ボクの……甘さ。