「行ってきます」


翌日、その日から
もう一度一緒に生活を始めたボクは
大学へ出かける咲を見送るためベッドから起きだす。


「和鬼、
 今日は22時頃には帰れる?」

「どうだろう。
 行ってみないとわからないよ」

「了解。
 向こうは珠鬼が守ってくれてるでしょう。

 でも……私たちが行かないと、
 何も始まらないわ。

 この世界の四季は美しいでしょう?」

「そうだね……」

「四季が美しく感じるのは、
 心の時計が時を刻み続けるから。

 だから私たちの想いを受けて
四季は巡り続けるの」


 
咲が国主として、
おさめるようになった鬼の地は、
すぐに変化を見せた。


かつては王宮のみが
四季を感じられた鬼の世界。
春の村・夏の村・秋の村・冬の村。


一年中、季節の変わることのないその世界は、
人の世と同じように、
それぞれの場所が四季を感じ移り変わるようになった。


4つの村に、必ず違う季節が常に訪れる
新しい鬼の世界の形。


ボクと咲が人の世で生きる時間は、
珠鬼たち、民に選ばれた者たちが国の取り決めをして
政を行っていく。



「仕事が終わり次第、
 向かうよ。

 いってらっしゃい」



送り出したボクは神木へと向かって、
いつものように枝に腰掛けて地上を見つめる。


目前に映し出される人の世と
瞼の裏側に映し出される、鬼の世の街並み。



2つの地上を抱いて
ゆっくりと深呼吸。







桜舞い散るこの地は、
2つの世界を繋ぐ聖域。





龍神の加護を得た
穏やかな土地。




育まれた大地は、
木々を芽吹き、人を育てていく。