「YUKIさん、ですが素人では……」

「カメラさん、予定変更です。
 桜の精は、咲以外に存在しないわ」


今にも反対しそうな関係者を、
依子さんは、有無を言わさぬ様に変更を告げた。

「依子さん……」

「あらっ、咲と再会して記憶が戻ったかしら?」


ボクの隣には、
戸惑いながらもボクと依子さんを交互に見つめる咲。


「ごきげんよう?咲。
 YUKIからの御所望よ。

 貴方以外に、桜の精が出来る存在が何処に居て?
 奥に行って、準備してらっしゃい。

 私の最高のスタッフが貴女をプロデュースしてあげるわ」



依子さんがゆっくりと咲の方へ歩いて
ゆっくりと手を差し出す。


「ご無沙汰しています。
 依子先輩、活躍されてますね」

「えぇ。
 和喜のことは、咲、貴女にお任せしますわ。
 でもYUKIは、独り占めさせなくてよ」

「ふふっ。
 そうですね……YUKIは独り占めなんて出来ませんよ。
 一花先輩にも依子先輩にも、何されるかわかりませんから」

「あらあら、一花さまとはお懐かしい名前ね。
 それに咲も言うようになったわ」


そんな会話を交わした後、
依子さんは咲を車の中へと誘導した。


入れ替わりに姿を見せた有香は、
テキパキと撮影の変更に関わる手続きと、
一般見物客の対応にあたっていた。



「桜の精霊、準備できました。
 撮影始めます」
 
 

車の中から着替えを済ませた咲が
平安装束に似た着物を身に着けて
桜の木の枝に腰掛ける。





あの記憶【ゆめ】のままに。







それは遠い昔、
ボクが咲を待ち続けた風景。





桜吹雪が舞い踊る中、
ゆっくりと響き渡る、箏の音色。


箏の音色に引き寄せられるように
重なり合っていく調べ。






髪を揺らし、心を揺らし追い続ける
視線を辿って掴み取る少女の手。








歌い続ける恋歌は、
息吹に乗せて、
鬼の歌へと姿を変えて行く。




鬼が紡ぎ続ける真実の歌。