「ねぇ、珠鬼。
 私は四季を作りたいの。

 この世界は確かに綺麗よ。

 春の世界も、夏の世界も、
 秋の世界も……そして冬の世界も。

 だけどそれだけじゃ、心は育まれないもの。

 私は国主として、 民の住む大地だけでなく、
 心も見守っていきたいから」




そう言った私に、
珠鬼は、微笑みながら賛同してくれた。


王族たる証である剣を翳して、
その資格を得た私は、
珠鬼をお供に王宮に初めて足を踏み入れる。


この場所は、
咲鬼として過ごした私の大切な場所。


そしてこれからの私にとって、
第二の故郷になる拠点。



ゆっくりと絨毯を敷き詰められた王の間へと
足を進めると、玉座の前で剣を振るいながら
この世界の時を刻み始める。



春の季節は夏へ。

夏の季節は秋へ。

秋の季節は冬へ。

冬の季節は春へ。





大きく動き出す
鬼の世界をゆっくりと抱きしめた。



この鬼の国は国主が思いのままに
創生することが出来るそんな世界。



国主が夢と希望に溢れることがあれば、
民たちの暮らしは満ち、
国主が悲しみや絶望に覆われてしまえば
国の未来は危ぶまれる。




それが私がこの世界に降り立って
学び得た国のシステム。



「姫さま……、陛下の願いどおり、
 この地は大きく歩きはじめました。

 胎動を刻むように」


「うん」




守っていきましょう。



抱いていきましょう。






今の私にできる精一杯で。





「珠鬼、
 私今から向こうに帰るね。
 
 明日の夜、
 また戻ってくるから」




そう言った私に、
珠鬼は『いってらっしゃい』っと
送り出してくれた。





あの日、和鬼が影から影へと
空間を辿ったように
私もゆっくりと移動して、
和鬼がずっと暮らし続けた
その場所へと足を踏み入れる。




枯れた木々は、すっかりと土へと帰り、
大地には新緑の絨毯が広がっていく。



神木に繋がる扉へとゆっくりと手を翳して、
向こうの世界へと回廊を渡った。