「珠鬼、ボクの未来はもう短い。
 この呪詛は消えることはないと神に告げられた。
 ボクの歩く道も残すところは後僅かだと。

 咲が言ったんだ。
 ボクに……コロシテ欲しいと。

 ボクは望みを叶えるよ。

 咲の願いを
 ボクの最後の力で。


だからボクが消えた後、咲を守って。

 遠くから、寂しがり屋の彼女に寄り添って。

 ボクはもう彼女の元に帰ることは出来ないし、
 触れることも叶わない。

 珠鬼がボクを今も親友だと思ってくれるなら、
 ボクの望みを受け継いで」



ボクの中での精一杯の肯定。


ボクが和鬼なのだと、
面と向かって正体を告げることはできない。

だからこそ『親友』と言う言葉に思いを託す。



珠鬼に告げてから、
横たわっていたその場所から立ち上がる。



そして一歩ずつ踏み出していく
ボクが向かう先、ボクを囲んでいた民の輪が、
ゆっくりと両側へと別れていく。



出来た通りの真ん中、
ゆっくりと歩いていくボク。





「桜鬼でも和鬼でもいい。
 生き急ぐな。

 咲鬼姫【しょうきひめ】には……いやっ咲姫【さきひめ】には、
 お前が居ないといけないんだろ。

 一緒に旅をしている間、
 彼女はいつもお前の事ばかり考えていた。


 彼女が魘されるのは、決まってこの地に住む民が、
 和鬼を敬って桜鬼を蹴落とした後。

 咲姫は真実を知っていたから、あのように苦悩してたんだな。

 俺は……ずっと、和鬼の傍にいた。

 だが……その苦しみを
 感じることが出来なかった。

 情けねぇよな。
 こんな時ほど、支えてやりたいのに。


 だけどな。
 今は違うぞ。

 お前が何を言っても黙って死なせるようなことは俺がしねぇから。

 帰ってこい」




ボクの背中に、そうやって声をかけてくれた
珠鬼はそのままボクの元へと駆けてきた。



二人が並んだ途端、
再び、姿を見せたのは風鬼。


依子さんと、
操られてしまった咲。




「珠鬼、下がってて」