「姫様」






足音が聞こえて、
勢いよく開け放たれた襖から
姿を見せたのは珠鬼。







『咲。

 裏切り者を殺せ』





風鬼に心を奪われて
傀儡【くぐつ】と化した咲は、
言われるままに珠鬼の命を狙っていく。




「咲っ、ダメだ。

 珠鬼を殺して傷つくのは君だから」




そう親友(とも)を殺して
傷つくのは自分自身。




その罪は、自分自身で許すことなど出来ず
誰が許したと言っても、消し去ることは出来ない。




「咲、和鬼だよ。

 気が付いて、
 君に伝えたいことがあるから」





桜鬼の姿であることを知って、
その名を口にする。





本来、決してこの地で
この姿で唱えることなどあってはならない
禁断の名。





「和鬼だと」




咲が反応するよりも先に、
珠鬼の視線が
突き刺さるようにボクに向けられる。









「桜鬼のお前が、
 何故その名を紡ぐ。

 姫さまだけでなく、
 和鬼までその手にかけたか?


 貴様、どれだけの存在を
 殺め続ければ、
 お前のその刀は血を欲することをやめる?」