譲原咲として精一杯
生き続けた私は、何?






私の中で、何が私なのか
正直わからなくなってるほど混乱していた。




今の私は、
珠鬼の掌でもがく操り人形?





「姫様?」

「珠鬼、煩い。

 夢見が悪かっただけよ。
 だからもう、関わらないで。
 出て行ってっ!!

 アナタが横に居たら、
 和鬼が私を訪ねて来れないわ。


 何時まで経っても、
 貴方たちの求める和鬼は
 貴方たちの前に姿を見せないわよ。

 和鬼を壊してしまったのは、
 アナタたち、鬼の世界の存在だもの。

 そして今、私も同じように
 壊そうとしてる。

 もう疲れたの。
 私は咲であって、咲姫じゃない。

 何度も言ってるでしょ。
 もう私を姫なんて、呼ばないでっ!!

 和鬼は、そんな呼び方絶対しない」





襖の向こうに怒鳴り散らして、
自分の布団の中に、潜り込む。




隣の部屋に居た珠鬼の足音は
ゆっくりと遠ざかっていく。




布団の中、
赤子のように体を小さる丸めて
体を震わせながら、
呪文のように縋り付くように
和鬼の名前を唱え続ける。






……和鬼、
  私は此処に居る……



和鬼迎えに来て……助けて。






私が壊れる前に。





(……咲……)



何処からともなく、
彼の優しい声が
聴こえた気がした。




そう……。

和鬼はいつも
私を名前で呼んでくれる。




私を咲姫としてでなく、
咲として……。