……ボクの歌は
   ……特に……。




ゆっくりと差し込んだ
照明の光と共に鼓と琵琶、
お琴が奏でるその調べに
重なり合うように、
やがてドラムやギダー、ベースが
交わり始める。




その音色が一つに溶け合う頃、
静かにその声色【こえ】を
周囲に響き渡らせた。





鬼の持つ生吹に乗せて歌い上げる。








移りゆく……
  長の年月



四季の
  移り変わり



人の世に
   憧れ……

人の世を
   憂い……

人の世に
   焦がれ……

人の世を
   儚む






桜、舞い散る
……その場所で……




霞みかかるその土地で
一人、孤独と向き合う。





長い年月をただ一人。





遠い昔の契りを誓いに
今を紡ぎ続ける。






周囲の空気が一言一言、
紡ぎだすたびに
研ぎ澄まされていく。



ボクの声色に引きずられるように
人々の視線は、ただ一点を捕える。





*




『……かの人よ……。


 その桜……
 願い……儚し……
 無常の季節(とき)よ……


 移りゆく久遠【くおん】に
 散りゆく景色


 霞みゆく面影
 遠のく……面差し……


 月夜桜よ
 舞い踊れ

 かの君に……
 その思いをのせて……』




*













奏でる琴の弦に触れる
指先に力が籠る。







激しく情熱的に……

そして……物悲しく……
響き渡るその調べは
ゆっくりとやがて光の時に包まれる。






演奏をし終えたボクは、
ゆっくりと呼吸を戻す。 




生吹で歌う真実(鬼)の歌ではなく、
人として……由岐和喜として……の波長へ。