YUKIのバースデーイベント当日の朝。

食事の時に小さな地震が起きて、
その後、出掛けたきり連絡が取れなくなっていること。

有香さんからも連絡があり、
YUKIとしての仕事も休んでしまっていること。



私が知ってる情報も僅かそれだけで、
事務所がYUKIを
体調不良で再び休業に入らせたってことだけ。



和鬼、今何処にいるの?




問いかけてみても、
和鬼の声は聞こえない。




司に支えられながら、自然と足が向かうのは
御神木。

御神木の前に立つと、ゆっくりと手で幹を触れる。

私が触れた後ろ、
一花先輩も同じように幹に触れながら私に視線を合わせる。


「咲、和鬼君、枝にはいませんはね。
 御神木は何かを教えてくれましたか?」


そうやって質問されるも、ゆっくりと首を横に振った。



何もわからない。

鬼の世界に続く回廊も、
開く兆しすらない。




気が抜けたように脱力した体。

ふらふらと、
その場に座り込んだ。



「咲、無理しすぎ」



そう言うと司は、再び私を支えて
お社の階段へと座らせてくれた。


「咲、そうですわ。

 YUKIのバースデーイベントは中止になりましたが、
 和鬼君が帰ってくるのを信じて、
 私と一緒に出掛けましょう。

 イベントの日はYUKIの誕生日かもしれません。

 YUKIと和鬼君の誕生日は、違うかもしれませんが
 鬼の彼にも誕生日はあるのでは?

 私たちで和鬼君をお祝いしましょう。

 和鬼君が帰ってきたら、ちゃんとお祝いできるように
 休日の明日、お出かけしましょうね。

 荷物は司が持ってくれるわよね」


司が荷物持ちって……。

一花先輩のテンポは、
どんな時もいつもと変わらない。


だけど、今はそんな一花先輩のテンポが
ほっとさせてくれる。


お社の前に座って話し込む私たちの方へ
見慣れない車が三台ライトを照らしながら
坂道をのぼってくる。