「待って。
 和鬼っ!!」 






和鬼を追いかけて朝食を中断し、
玄関に飛び出すも私が玄関に辿り着いた時には
もう……そこに和鬼の姿はない。




慌ててもう一度神木へと駆け上がる。



さっきまで和鬼が腰かけていた
その枝にも和鬼の姿はない。







この世界と鬼の世界を繋ぐ扉でもある、
御神木の幹に手を触れてみるも、
私が鬼の世界に入れた、あの時のように、
手が中に吸いこまれることもない。









……和鬼……。












私は和鬼の名を紡ぎながら
その場に崩れ落ちる。


















和鬼が鬼だっていうのは、
私も受け止めてる。











和鬼が鬼だと知りながら
私は今を和鬼と共に過ごしてる。


和鬼がYUKIだと知りながら、
私は和鬼と一緒に過ごしてる。



ちゃんとわかってるつもりなのに、

こうやってようやく手に入れた、
楽しいひと時を邪魔されるたびに
和鬼は鬼で、和鬼は芸能人なんだって
強く、突きつけられる。




私とは違う世界で生きてる人。






馬鹿みたい。

鬼だと知りながら
恋をして今を生きてるのに。


芸能人だと知りながら、
傍にいるのに……。




私の知らない「和鬼の姿」を自覚するたびに
酷く不安になる。






和鬼……無理しないで。
ちゃんと帰ってきて。

ううん、今すぐ帰ってきて。
帰って私を安心させて。







傍に居たい。







……和鬼……。


どれほど、
貴方を想い続ければ私の心も、
貴方の心も満たされるの?





私たちの不安は掻き消えるの?





月に叢雲【むらくも】花に風。





良く言ったものだよね。


どれほどに寄り添い合って、
楽しい時間を過ごしていても、


月を雲が隠すように
和鬼を……YUKIが連れ去り



花を風が散らすように……
和鬼を桜鬼神が消してしまう。








二人の穏やかな時間は
長く続かない。






その度に人間と鬼を気づかされ、
私自身の器の小ささを思い知らされる。







……和鬼……。




あの日から、貴方一人に
こんなにも焦がれて振り回されてる。







寂しさと醜さの裏側に感じられる、
穏やかな優しい時間。







その時間に今は、しがみ付きたくて。