和鬼が御神木に居るときのみ、
和鬼の周囲には、桜の花弁が美しく舞い踊って
幻想的な空間を魅せてくれる。


舞い踊る桜の花弁、
掌を開くと、ふわりと一枚舞い降りた。


その桜吹雪の先、ご神木の桜木の枝。


まだ幼さの残る鬼は、
指先から桜の花弁を生み出しながら
下界を見つめる。


「和鬼、おはよう」


和鬼の視線がすっーっと
私の方へと向けられてにっこりと微笑みかける。


「おはよう、咲」


ふんわりと枝から舞い降りて、
和鬼は私の前に向かい合うと、
ゆっくりと目を閉じる。


「今日は調子よさそうだね。
 咲の気が、勢いよく巡ってる拍動を感じる」

「うん。
 今日は調子いいよ」


そうやって答えながら、
心の中では言葉を続ける。



『和鬼が傍に居てくれるから』


なかなか正面切って言い出せない
可愛くない私の本音。



「和鬼、朝ご飯出来たよ。

 お祖父ちゃん、先に食べてるから
 早く行こう」



和鬼を私の方へ引き寄せたいから、
そっと手を伸ばす。


すぐにでも抱きしめたい。


和鬼がゆっくりと私の手をとって、
姫抱きにしたまま、神木の枝へと舞い上がる。



「さっ、行こう」



和鬼はそのまま私を姫抱きにして、
飛翔すると一気に、自宅前へと舞い降りた。

抱かれた温もりを
噛みしめながら、必死に和鬼にしがみつく私。




この温もりが永遠に続いてほしくて。



自宅に戻ると、
私も和鬼も、テーブルについて食事を始める。


シーンとした時間が時計の秒針をも
大きく室内に響かせる。


朝食も終わりかけた頃、
グラグラと建物が揺れる。

お祖父ちゃんは、
私を連れてテーブルの下へ。


和鬼は食事を進める箸を止めて、
何かに意識を集めているみたいだった。



「和鬼、和鬼も早く?」




和鬼は瞳を閉じて
精神を集中させている。




こういう時の和鬼は
桜鬼神としての役割を果たしてる時。





和鬼の瞳が開くのを
ただ私は待ってるしか出来なくて。






「……空間が歪んだ……。

 咲、ごめん。
 ボク……行かなきゃ」








和鬼はそう呟いて
立ち上がるとお祖父さまに、
一礼してダイニングを後にする。