「お帰りなさい」

小さく紡ぐ言葉。
溢れだす涙。


「ただいま咲。

 心配した……。
 咲の気が途切れるから……。

 有香に送って貰ってたけど、
 それじゃ遅いから降りて影を辿って帰ってきた。

 山の中で倒れてた。
 少しだけ熱もあったんだ。
 
 今はボクの気を流したら、
 落ち着いてると思う。

 もう少しお休み、咲。
 ボクが傍にいるから」



掛け布団をめくって、
ベッドの中に入るように
和鬼にも促すと私の隣に横になった。




「お休みなさい」



和鬼を感じながら眠る。

それだけで、
こんなにも飢えは満たされていく。



今の私にとって、
和鬼は、湧き上がる泉。



温もりを感じながら
朝まで眠り続けた。







朝。
目覚ましが室内に響く。



いつものように枕元の
携帯を手さぐりで探して
スヌーズを解除。


ゆっくりと体を起こすと
昨夜、隣にいたはずの
和鬼の姿はそこにはもうない。



朝陽が昇る時間に和鬼は隣にいない。



ベッドから這い出して、
服を着替えるとダイニングへと顔を出す。



「おはよう、お祖父ちゃん」

「咲、熱はさがったか?
 無理はいかんぞ」


新聞を広げてたお祖父ちゃんが、視線を私に向ける。


「今日は大丈夫だと思う」

「そうか……。
 
 無理せず体調が悪くなったら、
 西園寺先生のところに行くんだよ」
 
「うん、わかってる。
 ご飯作っちゃうね」


いつものように朝の定番メニューを作って、
お祖父ちゃんの前に置く。

そして御神木の木に、
今日も和鬼が居ないか気になって足を向ける。


玄関を出て、一気に駆け上がる坂道。


……あっ……桜の花弁。



ここ数日と違った光景が、
私を刺激する。