「帰ってきたなら、
 起こしてくれてもいいじゃない」

「無理を言うもんじゃないよ。
 和喜も仕事してるんだ」

「わかってるけど、逢いたかったの。
 ごめん、朝ご飯作るから」


そのままキッチンへ入ると、勾玉を首からぶら下げた後、
手早く三つのコンロを操って、

・味噌汁
・焼き魚
・卵焼き
・お浸し
・お漬物

っとサクサクっと作ると、
お祖父ちゃんの朝ご飯をテーブルに並べる。


自分用には簡単に、
卵でとじて葱をふっただけのシンプルな雑炊。


ガサガサっとかけこむように胃袋に流し込むと、
食器を片付けて、通学準備を整えて家を出た。



お祖父ちゃんは出掛けたって言ってたけど、
和鬼は御神木にいるから知らない。

和鬼は鬼の仕事もあるんだもん。


一気に駆け上がる坂道。


視界に入る神木に、
和鬼の姿は今日もない。



肩を落としながら、
いつものように神木に手を添えて
祈りを捧げる。




いつもと違うのは、
和鬼からのプレゼントが首からぶら下がってる。



肌に触れた勾玉を服越しに掴んで、

『和鬼に今日は逢えますように』っと
願いを込める。



梅雨時の雨に、ぬかるんだ山道。


一気に、歩きなれた山道を駆け下りて
下山するとコンビニ裏で、
靴下を履き替えて靴の汚れをウェットティッシュで拭き取る。

ジメジメとした湿度が、長い髪をべったりと皮膚に貼りつかせる。


鞄から取り出した櫛で、長い髪を梳いて結いなおすと
コンビニの店内で、冷却シートと飲み物を購入。

一息入れて落ち着いたところで、
ゆっくりと校門の方へと向かっていった。


「ごきげんよう、シスター」

「ごきげんよう。
 譲原さん、今日はどうかなさいましたか?
 お顔の色が優れないようですが」

「御心配には及びません。
 シスター、お心遣い有難うございます」



一年ほどたって、ようやく春夏秋冬。

一年中変わらない、朝の校門での風景にも
意味があることを知った。

シスターは、こうやって生徒たちの様子を毎日感じて、
今日の様に変化が認められたときは、声をかけて相手を気遣う。


両親の愛情を貰えなかった私には、
お母さんが今も居たら、こんな感じなのかなーって
ちょっぴりシスターの中に、お母さんを求めてしまってる。


シスターに一礼をして更衣室へ。
そのまま、朝練をこなして教室へと向かった。


「ごきげんよう。咲」

聴きなれた声が聴こえたと同時に、
ノートを差し出される。


「司……有難う」


差し出されたノートを受け取りながら、
司の顔を見ただけで、
なんかほっとして……泣きそうな自分がいる。


「あららっ。
 咲、また和鬼君となんかあった?

 そのチラっと覗いてるの、
 勾玉はプレゼントかな?」



すかさず、目ざとい司は
和鬼からのプレゼントに気が付く。