『咲ちゃん、
 ママ再婚することに決めたわ。

 ママ、新しいパパと幸せになるから。

 咲ちゃんは、お祖父ちゃんと暮らしてね』





お母さんは私を
お祖父ちゃんの家に置き去りにして消えた。

その日から、
お母さんからの連絡は一度もない。

お母さんにも捨てられた。
その寂しさと孤独感。


それはあの日から決して消えない傷。


ふと私の聴覚を刺激する、
箏の音色と、透き通る和鬼の歌声。



……和鬼……
 逢いたいよ……。



和鬼の歌声を子守唄に
そのまま眠りの中に誘われていった。




和鬼と逢えない日々は、
更に一週間続いた。


季節は六月の下旬。


和鬼に逢えない時間のストレスは、
私的には思った以上に大きくて、
食欲も今は落ちてしまってた。


来学期の学費免除もかかってるから、
部活での成績は残さなきゃいけない。

学校生活でのプレッシャーも、
重なって精神的に疲弊していたある朝、
ベッドの頭元に置かれていた、小さなボックス。


ゆっくりと包装を解いて箱を開けると、
その中からは、革紐に通された小さな勾玉が姿を見せる。




和鬼?
帰って来てたんだ……。





慌ててベッドを飛び出して、
隣の和鬼の部屋の扉を開けるものの、
和鬼の姿はない。

お祖父ちゃんと一緒?

それとも御神木に座ってる?



考え付くままに、眠い目をこすりながら
和鬼を探して二階から一階へ駆け下りる。



「咲、階段は静かに。
 時間に余裕をもって生活しなさい」


お祖父ちゃんの部屋がゆっくりと開いて、
すでに着替え終わってる、
お祖父ちゃんが顔を見せる。


「あっ、ごめんなさい。
 えっと、お祖父ちゃん和鬼は?」

「和喜は仕事に出掛けたぞ。

 四時前だったかな?
 一度帰宅して、五時には出ていった」



四時に帰って来て、五時に出ていったって
一時間くらいしか帰ってなかったってこと?