「「ただいま」」
二人揃って、玄関を開けると
すでにお祖父ちゃんは眠ってた。
もう22時になろうとしているから。
お祖父ちゃんは夜も朝も早いから。
和鬼と二人、お祖父ちゃんの部屋の前を
慎重に通過して、二階へと駆け上がった。
自分の部屋へ戻ろうとした私を
和鬼は、
自分の部屋へと腕を引っ張って引き寄せた。
そして私をギュっと抱き寄せてくれる。
そんな和鬼の優しさを私は知ってる。
だから大丈夫。
心配性の和鬼にちゃんと伝えて、
安心させてあげなきゃ。
「大丈夫だよ。
和鬼、心配かけて御免。
和鬼のYUKIの仕事も大切な時間だって
ちゃんとわかってるから。
和鬼が仕事で居ない間も、
私には……テニスもあるし、司も居るし
YUKI仲間の一花先輩もいる。
それに……習い始めたお箏もある」
私がゆっくりと告げた言葉も、
嘘じゃない。
多分……嘘にはならないから。
それでも……夏が近づく、
今の季節は、心が折れそうになるだけ。
「有難う。
LIVEが始まっても、
ちゃんとボクは帰ってくるよ。
暗闇に紛れて影を渡ってでも。
ボクは何時も、咲の傍にいるから」
「……うん……。
和鬼が優しいのは、
ちゃんと知ってるから」
和鬼は優しくを私を抱きしめながら、
ゆっくりと口づけをする。
そんな和鬼の口づけを受けているうちに、
体内の奥から痺れるような感覚が押し寄せて
私の体は力が抜け落ちていくように眠りの中へと
誘われていった。
目覚めたらベランダから帰ってきたらしい和鬼が、
布団の中に潜り込んできた。
無意識に和鬼に腕を伸ばして
絡めるように抱き寄せると、
私たちはそのまま、朝を迎えた。
何時もの日常。
そして和鬼を皆の元へ返す時間。



