夜のトンネルを通過する車の窓越しに映った
和鬼の貌【かお】は、今も何処か寂しそうで
思わず、和鬼の右手へと自分の左手を伸ばした。
私が和鬼の指先に触れても、
今は何かを考えているみたいで
私の方を向き直ることなんてなかった。
和鬼の温もりを指先で感じながら
沈黙の時間だけが見慣れた景色を走りながら
過ぎていく。
「さぁ、YUKI明日からは、
LIVEの練習が始まるわよ。
サポートは、今日手伝ってくれてた子たちが
LIVEの時も頑張ってくれるみたいだから。
咲ちゃん、しばらく寂しくなると思うけど
和喜君借りるわね」
自宅が近くなった頃、
運転してくれた有香さんが
後部座席に聞こえるように、
少し大きな声で話しかけた。
和鬼はYUKI。
YUKIは人気のミュージシャン。
私が独り占めに出来る存在じゃない。
そんなのちゃんとわかってたでしょ。
だけど……
ちゃんと私のことも見てくれてる。
和鬼を信じてればいい。
YUKIとしての活動も、
ちゃんと笑って送り出して応援しないといけない。
心ではわかっていても、
和鬼のツアーが始まると知って私の心は何処か寂しくて。
「咲ちゃん、関係者パス手渡しておくから
来れるときは顔出しなさいな。
その時は、事前に私の携帯に連絡貰えると嬉しいわね」
有香さんから手渡されたのは、
YUKIの事務所からの気遣い。
ちゃんと私にYUKIの傍に居ていいって
形で教えてくれる。
伝えてくれるのに……
なんでこんなにも、
和鬼にことになったら独占欲が大きくなってくんだろう。
「有難うございます」
戸惑いながらも封筒を受け取ると
私は有香さんに、丁寧にお礼を告げた。
「有香、有難う。
明日は咲の学校へ。
久しぶりに、咲と一緒に歩きたいから」
「わかったわ。
なら七時半に、
聖フローシアの校門前に迎えに行くわ。
おやすみなさい」
和鬼と有香さんは、次の日の打ち合わせを終えると
ゆっくりと私たちを送り届けた車は、坂を下っていった。



