一花先輩は、
ゆっくりと私の方に携帯画面を差し出す。
画面に映し出されたのは、
YUKIとして仕事をする和鬼を
入待ち、出待ちをしていたファンらしき人が撮影した写真。
「司から聞いたわ。
和鬼君と、なかなか一緒に居られないみたいね」
「一緒には入れないけど、
仕方ないです。
和鬼はYUKIで有名人だもの。
和鬼は私たちのことをずっと思ってくれてる。
物が欲しいわけじゃないけど、
和鬼が、YUKIとして稼いだお給料で
私の家はリフォームされたもの。
キッチンだって、お風呂場だって、おトイレだって
凄く素敵になった。
神社のお社の改修費用も、和鬼が用立ててくれてる」
「えぇ、司から伺いましたわ。
だけど咲、何かを与えたからと言って
貴女を悲しませることなどさせていいはずありませんわ。
和鬼君に抗議しましょう」
そうやって一花先輩が言い出した頃、
私の携帯が着信を告げた。
液晶に映る名前は、
有香琥珀【ありか こはく】。
YUKIのマネージャーの名前だった。
「誰?」
「有香さん。ごめん、電話でるね」
私を断りを入れて、通話ボタンを押す。
「もしもし、譲原です」
「こんにちは、咲さん。
有香です。
今日、YUKIの歌入が終わりました。
スタッフと打ち上げの予定だけど、
来ない?」
「えっと……」
すぐに返信出来ないでいると、
すかさず司が私の携帯を手を奪い取って一花先輩へ。
「こんにちは。
有香マネージャー、一花ですわ。
咲は私共と一緒に居ます。
時間までに送り届けますので、
待ち合わせ場所を」
一花先輩は勝手に話を進めると、
楽しそうな笑みを浮かべながら電話を切った。



