心は穏やかに
満たされている……はず……。
なのにどうしてだろう。
今もボクの心は乱されていく。
全てを諦めていたボクが、
今以上に求め続ける何か……。
咲をボクだけの元に
縛りつづけたい。
黒い影が
ボクを包み込んでいく。
その影の正体を
ボクは知ってる。
独占欲と
言う名の魔物。
ボクの中に
魔物が棲みついていく。
ただ静かに咲と咲久と共に過ごす
鬼が求めるには幸福すぎる時間を、
今は……一日でも長く続けていたいだけ。
そんなことを思いながら、
ボクは桜鬼神としての務めを今宵も果たす。
丑三つ時を少し過ぎた頃、
再び桜の回廊を渡って、
ボクは自室のベランダへと飛んだ。
和鬼のままで、
部屋へと帰り着くと
そのまま咲の眠る隣に
ボクの体を横たえる。
衣擦れの音が夜に響く。
一定のリズムで響いてくる
咲の寝息。
咲の寝息を子守唄に
ボクもゆっくりと目を閉じた。
咲が生きている証を
ゆっくりと胸の中に抱きながら。
今は穏やかな寝息も、
耳を澄ますとボクの聴覚に
ダイレクトに響いてくる咲の拍動も、
やがては……失われ崩れていくもの。



