*
……愛しき人よ……
もう一度
……その瞳を開けて……
*
真実の恋歌を紡ぎ続けるボクの顔に
柔らかな温もりが広がる。
その温もりが、咲自身がゆっくりと伸ばす手なのだとわかった。
ボクの瞳に、指先が触れ
ボクの涙を掬いとめる。
「つかまえた」
彼女の指先がボクの小指に
ゆっくりと絡みついてにっこりと微笑む。
「……約束……。
覚えててくれたんだね。
桜の木の下で
……また会おうって……。
言い出した私が覚えてなくて
ごめんなさい」
*
『……和鬼……私たちは
再び出逢うわ……。
だから……
愛しい人
……私を見つけて……。
……愛しい人……
そんなに悲しまないで……。
いつか……
桜の木の下で……』
*
ふと脳裏に咲鬼の最期の言葉が
広がっていく。
「思い出したんだね。
咲、咲鬼の記憶を」
彼女はボクの腕の中、
柔らかに微笑んだ。
「旅に出てた。
真っ暗な世界に。
ずっと見ていた不思議な夢の世界の
話だって気がついた。
あの頃から、私も変わらなかったんだね。
和鬼が好きだって思いは」
「ボクも変わることはない」
「……嘘……。
和鬼は今も咲鬼さんが好きなんだよ。
咲鬼さんの魂が転生したのが私だから。
だけど……私には今日まで
咲鬼さんの記憶なんてしらない。
今も夢で見た情報を知ってるだけで
記憶が戻ってるわけじゃない。
それに……記憶を
戻したいわけでもない。
私は……咲鬼ではなくて……
咲だから」
彼女がボクの腕をギュっと握りしめながら
涙を流して声を震わせながら伝える。



