……愛しき人よ……
 


もう一度
 ……その瞳を開けて……







真実の恋歌を紡ぎ続けるボクの顔に
柔らかな温もりが広がる。



その温もりが、咲自身がゆっくりと伸ばす手なのだとわかった。



ボクの瞳に、指先が触れ
ボクの涙を掬いとめる。




「つかまえた」



彼女の指先がボクの小指に
ゆっくりと絡みついてにっこりと微笑む。




「……約束……。

 覚えててくれたんだね。

 桜の木の下で
 ……また会おうって……。

 言い出した私が覚えてなくて
 ごめんなさい」








『……和鬼……私たちは
 再び出逢うわ……。
 
 
 だから……
 
 愛しい人
  ……私を見つけて……。

 ……愛しい人……
 そんなに悲しまないで……。


 いつか……
 桜の木の下で……』







ふと脳裏に咲鬼の最期の言葉が
広がっていく。





「思い出したんだね。

 咲、咲鬼の記憶を」



彼女はボクの腕の中、
柔らかに微笑んだ。




「旅に出てた。
 真っ暗な世界に。

 ずっと見ていた不思議な夢の世界の
 話だって気がついた。

 あの頃から、私も変わらなかったんだね。

 和鬼が好きだって思いは」



「ボクも変わることはない」


「……嘘……。

 和鬼は今も咲鬼さんが好きなんだよ。

 咲鬼さんの魂が転生したのが私だから。

 だけど……私には今日まで
 咲鬼さんの記憶なんてしらない。

 今も夢で見た情報を知ってるだけで
 記憶が戻ってるわけじゃない。

 それに……記憶を
 戻したいわけでもない。

 私は……咲鬼ではなくて……
 咲だから」



彼女がボクの腕をギュっと握りしめながら
涙を流して声を震わせながら伝える。