伸びやかな和鬼独特の声が、
寂しげに室内に広がっていく。


その声に呼応するかのように、
鏡の向こうに本来映るはずのない
吸い込まれた少女の姿が映し出される。




鏡越しに伸ばされる指先。





その指は、愛しき人を求めるように鏡に映し出される。




和鬼は鏡の方に振り返って、
鏡に映し出された少女の指先に自らの指を重ねた。



『咲鬼……幸せに』



鏡越しに重ねる体は、
激しさを増していく。



『和鬼……有難う。

 もう……いいから……
 そんなに悲しまないで……。


 いつか……桜の木の下で……』







……いつか……
桜の木の下で……







鏡に映った少女の姿が
ゆっくりと遠ざかっていく。




辺りに暗闇が広がる。


その暗闇の中、
和鬼が寂しげに声をあげて泣いていた。

堪らなくなって
私は少年和鬼を抱きしめる。


和鬼の温もりが、
鼓動が私へと繋がる。



少年和鬼を抱きしめながら、
私はゆっくりと瞳を閉じた。



切ない歌声が心の奥に遠くから響いてくる。



透き通る全てを
魅了する高音。


柔らかで、
それでいて力強い歌声。




そんな遠くから聴こえる歌声に
幼い和鬼が重ねあう歌が
私をゆっくりと包み込んでいく。