『……咲鬼……。

 我、舞がそなたを導こう』




威厳溢れる口調で和鬼が呟くと、
少女は覚悟を決めたように頷いた。


桜鬼神が鼓と琵琶、箏の音色にあわせて
舞始める。


鬼神の舞う指先からは、
狂わんばかりの桜吹雪が広がっていく。



その雅やかな音色と鬼神の舞に
誘われるように少女はゆっくりと鏡の方へと歩いていく。


鏡に指先が触れる……。




その指は……留まることなく鏡の奥の世界へと
吸い込まれていく。





少女は鏡の中の世界へと旅立っていった。





旅立ちを見送って
少女のいなくなった部屋で歌を紡ぐ独り残された和鬼。



和鬼の指先には、
何時の間に手に入れたのか、
先ほど少女から手渡された首飾りの紐が握られている。



静かに首飾りを見つめて、
唇を押し当てた後、愛しそうに自らの首へとかけていく。








……愛しき人……


君、在りし……
日を胸に秘め
我……
今を歩む……。



君に幸あれ
日の光溢れる
世界よ


君の旅立ちを
我……
寿ぐものなり……