「咲、祭りは楽しいね。
ボクは、この地の人たちが
一つに力を合わせる瞬間が大好きなんだよ。
……美しいね……。
この愛しさをボクは守りたいって思うんだ」
にっこりと微笑む和鬼は、
鬼の姿で、あの神木の枝に静かに腰掛けながら
慈しむように氏子たちを、街を見守っていた。
今も氏子たちは同じフレーズを繰り返し口ずさんでいる。
誰が止めるでもなく、
それぞれが一つのことに力を重ねている。
これが本当の祭礼だって、
和鬼は教えてくれてるの?
知らない間に気が付いたら
重ね合わせているお互いの心と絆。
もしかしたら、神様に奉納するのは
歌でも舞でも感謝でもないの?
和鬼は、いつもの桜の木の下に
腰かけて柔らかく微笑んでいる。
この地に住む氏子たちを
心から包み込むように。
氏子たちもまた心を揃えて、
今の『感謝』を守り神に報告するように。
ゆったりと祭礼の時間は進んでいく。
やがて、とんどが消え篝火が消える頃、
お祭りは盛況に幕を閉じていく。
後片付けをして、真夜中。
和鬼と久しぶりの逢瀬の時間。
「……和鬼……。
有難う。
お祭りの本当の意味が……
わかったかも知れない」
「……そう……。
だったら良かった。
ボクも楽しかったよ。
人は……愛しい生き物だね。
だから……ボクは……
人に悲しいまでに
焦がれるのかも知れないね……。
ボクが持っていない
宝物を持っている人(きみ)たちに」
和鬼は再び寂しそうな横顔を
見せて言葉を繋げた。



