……桜の木に……
和鬼の姿はない……。








仕事なのかな?







私は和鬼の
もう一つの仕事を思い出す。





賑やかすぎて落ち着けないよね。





独り言葉を小さく吐き出して
和鬼のいない切なさを
紛らわせようとおじいちゃん達の方に
向かいかけた直後、桜吹雪が舞い上がる。



思わず、その桜吹雪を視線で辿る。


いつもの桜の木の枝に和鬼は腰かけて、
賑やかな境内を見下ろしていた。




「お帰りなさい」




誰にも姿の見えない
和鬼に……私は……
口形だけで言葉を伝える。





「ただいま。

 咲、今日は随分と賑やかだね」



柔らかい表情を浮かべて、
氏子を見守るように桜の枝に座り
見守るように慈しむ和鬼の姿は、
やっぱり人ではないのだと思い知らされる。




桜の木の枝から、ふわっと舞い降りると、
和鬼は私の隣へと立ち位置を移動した。


地上に降りても和鬼の存在が
視える【みえる】ものはいない。


誰の目にも簡単に視えない神様が、
私の隣に居るなんて誰も思わない。


ここに来てる殆どの人には、
私が一人でブツブツ話してるだけに映ってるはず。



「咲はどうしたい?」



突然、和鬼が私に向かって言う。



どうしたい?って。



勿論、和鬼と共に
この神社のお祭りを楽しみたい。




楽しみたいなんて、
我ままなのは知ってる。



和鬼は鬼神。


この神社の神様なのだと、
この祭礼は私に自覚させる。