「本日の卒業式のサプライズゲストは、
 ミュージシャンのYUKIさんです」


放送部の一声で、一気に歓声が包み込む教会内。


「YUKIさん、
 今日卒業する生徒たちに一言いただけますか?」



何も聞いてないよ……和鬼。

私にも内緒で、
こんなサプライズ決めてたんだ。


一花先輩、そりゃ和鬼が祝ってくれたらすごく
嬉しいし喜ぶと思う。

私だって嬉しいけど……。



「本日卒業する皆様、
 ご卒業おめでとうございます。

 縁あって皆様の旅立ちを共に見守ることとなりました。

 ボクには、想いを歌にのせて歌うことしかできません。
 ボクの全ての想いはこの調べにのせて。

 『春夏秋冬【ひととせ】の旅』」


そう言うと、和鬼はゆっくりと目を伏せて俯く。

真っ暗に明りが落とされて、
幻想的な桜が、教会内を舞い踊る中
和鬼は……YUKIが初めて歌うメロディーを紡いだ。




こうして卒業式が終わり、
私たちも、学年末テスト、実力テストの結果発表を経て
来学期からの進級が決定した。


終業式、春休み。


卒業生が学院をさっても、
毎日の日々は何も変わらない。


決められたことを、当たり前のように繰り返す時間。


それを充実させるか、
機械的に淡々とこなすかは、
本人の心がけ次第なのだと、今の私は思う。


本当なら……今頃、通い続けることが叶わなかったかもしれない
この学院。

だけど……私は、来学期も授業料免除が決まった。
和鬼と出逢って、私の時間は確実に変化してる。



和鬼と会えない時間。

仕事だから仕方がないと諦めながらも、
自分の時間を持て余してしまった私は、
お年玉の貯金を崩して、お琴を買った。


高い立派なものは購入なんて出来ないけど、
少しでも和鬼に近づいてみたくて。


ネットで検索して、
YUKIの箏譜を探して、ゆっくりと練習する。

こうやって自分で、和鬼を感じられることが出来れば
離れている時間も慰められるから。