「湯江くん、もう本当に姉貴のこと諦めるの?」
あらためて他人の口から聞くと、なんて重たい言葉でしょー。
「諦める方法なんて、今まででいちばん簡単だよ。実花に玉砕するだけだから」
あー。やっぱそれしかないよねー。
告って振られるのがいちばん安直なバッドエンドへの近道ですよねとか思っていたら。
どかどかどかどかどかって。
象でも突っ込んでくるかのようなすげぇ足音が下から駆け上がってきた。
「湯江っ大丈夫っ!?」
肩を大きく上下させて息切らす、実花だった。
「み、ミカちゃん、どしたのっ」
いわゆる「血相変えて」という顔して、実花はベッドに横たわった俺に寄ってくる。
あわてて起き上がろうとして、でも貧血のせいか強烈なめまいでまたベッドに沈み込む。
「湯江っ、しっかりしてっ!!」
ああ、実花、そんな悲壮な感じじゃなくてダイジョブです。
でもこの心配されてる感が愛されてます感に錯覚出来ていい気分。
「あ、えっと、ミカちゃん、どうしてここに?」
「哲平からメール、も、もらって……ゆ、ゆえがたおれたって……」
言葉がぐずぐずに崩れていく。
もしかして泣いてますか?……泣いてますよ………!!!
ふえんと声を上げてぽろぽろ涙をこぼす。
そんな姿もやばいくらいかわいんですが。
あーでも俺、彼氏でもないくせに好きな子泣かせちゃってるって最低じゃない?
まあ彼氏でも嬉し泣き以外は認められませんが。
っていうか今はそういうことではなく。
「み、ミカちゃん。お、俺だいじょぶだからさ……」
「大丈夫なんかじゃないでしょ!!」
思いっきり怒ったようにいわれて背筋がびくりとした。
ああ、好きなコにおもっきし叱られるのってすげーうれしい。
ってだから今はそれどこじゃなくて!
「全然大丈夫じゃないっ、最近ずっと顔色悪いし、お昼ご飯ちゃんと食べてるとこ全然みないし、広田くんたちとなんか全然仲直りしてないし、休み時間もずっと教科書みてぶつぶつ言ってるし、成績前より悪くなってるし!!」
あああ。全部正しいけど、最後のだけは知らなかったふりしてほしかったです、すみません。
「それに前はかっこよかったのに最近ずっと変な格好ばっかしてるし、折角似合ってたきれいな髪も真っ黒に染めて七三なんかにしちゃうし」
「えっ、か、かこ、かっこ……?お俺が……?」
俯いて泣いていた実花が顔を上げて、ちょっとすねたみたいに口尖らせて。
「うん、かっこいいよ、湯江は」
目の淵赤くしたままいじらしく言ってくる。
まじかわいいんですが。
やばいんですが、やばいすぎですが、死にそうですよマイエンジェル。
もうこの顔だけ心のアルバムに永久保存して、
これを失恋の遺産にして一生大事に抱えて生きていけそうなくらいのかわいさです。
だからもう言っちゃいます、失恋上等!いや、嫌だけどそれくらいの心意気で。
「ミカちゃんっ」
「ん、」
「すきです!とってもとっても!前からずっとすきでした!俺とつきあってください!」
ベッドに寝そべったまま、顔だけ実花に向けて。ありったけの気持ちをぶつけた。
告るときってもっとこわいかな、と思ってたけど。
好きな子に好きっていえることは、たまらなく気持ちがいい。しあわせすら感じる。
馬鹿面全開で笑う俺を見て、実花はびっくりしたようにきょとんとした後。
俺が一度もみたこともない、俺が見た中でいちばんきれいな笑顔をみせてくれた。


