「えっとねー、ミカはおしゃれなカフェを知ってる男が-------」
「……もーいいんです」


哲平の部屋のベッドに転がったまま呟いた。

あんなに頑張ったってのに、中間はさんざんな結果。

まだまだ期末があるぜ!と意気込んでさらなるガリ勉に励んでいたというのに、
参考書片手に帰宅途中、いきなり視界がホワイトアウト。


「湯江くん、ただの貧血だよ」


道端に倒れこんだ俺をたまたま通りかかった哲平に拾われた。





田所たちにつけられた「ガリ勉もやし」のあだ名のとおり、
最近飯を食う時間すら惜しんで勉強してたから、
すっかりウェイトが落ちていた。


華奢な細マッチョ系を心掛けていたのに、これじゃまじで白もやし野郎だ。
そこまでしてやってる勉強も全然成果出ねーし、もう無理じゃん?


実花が好きになるわけねーよ、俺なんてって、貧血めまいも相成ってすっかり弱気。

つい泣き言が口をついた。



「もーいいよ、哲平。代わりに実花のこと、諦める方法おしえてよ」






田所には『佐藤ってそんなかわいいか?』と視力検査を勧められた。
広田には『おまえ女に夢みすぎ』って忠告された。
日村には『おまえ不幸にしか見えねーぞ』と憐れまれた。




ほっとけ。



それでも俺は実花がかわいい。

ふつうよりちょい上くらいの実花の顔の、にっこりわらった笑顔にきゅんきゅんする。
女子にしてはさっぱりした口のききかたも、「湯江」って呼び捨てにする声も。

化学がすっげぇ苦手で俺とおんなじ赤点とったときに、
俺にふりむいて「やっちゃった」って顔したとことか、

小テストのマル付けで0点の俺の答案に「湯江は字が上手なのがよし」と
名前のとこに花丸つけてくれたとことか。

ふだんわりと控えめなくせに得意な球技大会ときだけいやにはりきって前に出たりするとことか。




俺はすき。
実花がかわいい。


朝起きるのがたのしみ。
勉強きらいなくせに学校がたのしみ。
教室入るのがたのしみ。

「おはよう」がいえるとその日最高。一日持続のハッピーが充電できる。



俺って超しあわせ。恋って最高よ?



でもそう思うことって強がりなんだろうか。さいきん、もうよくわからなくなってきた。