(プロローグ)決意の朝



「実花はさ、顔のいい男はタイプじゃないっていってたもん」



鏡の前で入念な身だしなみチェックをしていた俺に、無慈悲な声でそう告げるのは実花の弟、哲平。



「着てるもので言えば、隙なくキメてるおしゃれな男より洗いざらしのジーパンにさらっとTシャツ合わせてるような奴っての?そういうのがいいんだって」



---------なにそれ。おもっきし初耳なんですけど。



「男なのにおしゃれ過ぎっつぅかー、小奇麗すぎるのって逆に自意識過剰っぽくてヤなんだってさ」



---------え。それってまさに俺のこと?






今日も朝からワックスでていねいにスタイリングしていたその手が止まる。



鏡に映っているのは、いい感じに制服着くずした、
自分でみても「俺イイじゃん?」ってほめたくなるオサレな俺。


しかもお顔は学校でもイケメンの呼び声たかい、女子ウケ抜群のきれいめ系。





呆然とする俺に、哲平はとどめの一撃をのたまった。





「実花はさ、飾りっ気のない、素朴でちょっとダサいくらいのやつのが好きなんだってさー」


「……つまり、俺、全然ミカちゃんのタイプでないと……?」


「うん、まあ、どうなんだろね?」





俺を気づかってなのか、哲平はビミョーに言葉をにごす。


どうなんだろねもなにも、ダサいって俺の対極の言葉じゃねーか。








……サヨナラ、愛用のウーノ(オレンジ缶)。

きれいめ系のミディアムウルフヘア(ナチュラルテイストなパーマ付き)、

キミたち今日でバイバイね。












「……………ダサ男になる、」


え?と聞き返してきた哲平に決意を込めてもういちど。


「決めた、俺ミカちゃんのために日本一のダサ男になるわ」