「好きな人が、できたんだよね」




向かう合うと、まもなく彼女はそう言った。




まあだいたいこんなところか。むしろもっと、すっぱり別れてと、単刀直入に切り捨てられるものだと思った。




思いのほか静かに別離を求められた匡は拍子抜けした。




劇的なものなんて起こらないに限るけど、こうも淡白だと逆に反応に困った。




寂寥をはらんだ視線もそう。




まったく力んだところのない様子や、はじめて目にする神妙な佇まい、露骨な憎悪とはほど遠い、それどころか俺に対する謝罪の気持ちを見て取って、


匡はたちまちやるせない思いになり、胸がつぶれた。





悪いのは彼女ではなかったのに。





ただ俺が闇雲に吉田を疑って、追いかけて、誤解させたから。





だが、誤解を解いてからも、いや、思えばその誤解を解く過程にだって、懇切に言葉を尽くし、相手の心を慮ろうと努めていたか、自信がない。





俺はいつだってそうだ……。






自分の行動を正当化しようとすべてを手前勝手にねじ伏せようとしていると吉田に罵られたとき、言葉がなかった。