でも、と菜々子は彼の髪に残る雪解けのしずくがコーヒーに入りそうになっているのを器用に指ですくうと、
(それだからわたしはあなたに惹かれてしまうのね)
心の奥でそう呟いた。
わたしは光が淡いから。
だからどうしようもなく、自信過剰なこの人に惹かれてしまうのだ。
自分にはないものを彼は持っているから。
「でも、なに?」
不安げな眸が本気の怯えを宿して、すこし可笑しい。
「ひみつ」
「はー? なんだよそれ。俺にも二軍に落ちろって言うのか」
「落ちるの?」
「落ちねぇよ! これだけはたとえおまえに頼まれたってな!」
言い切ると、窪川はふてくされたように背もたれに身体を預け、
「けっ、いいよいいよ。どうせ、おまえが夏原みたいなやつにふらふら着いて行きそうになっても、結局は俺のほうに帰ってこざるを得なくしてやるだけだ」
「すごい自信ね」
「それが俺の取り柄だからな」

