喧嘩をしているところでも、見られたのだろうか。
「こないだ、そのことを謝られて、あれも返してもらった。今は俺の家の鍵についてる。……ありがとな」
「別に、礼を言われることじゃ。欲しかったんでしょ?」
「それ、本気で言ってんの? 手紙にも書いてあったけど」
「え、ちがうの?」
素でそう返すと、ちげーよ、と窪川は繰り返した。
参ったなと言うように苦笑を浮かべ、けれども嬉しそうな様子に菜々子は戸惑う。
「ほんとは、おまえに持ってて欲しかったんだよ」
窪川は鼻の下をかいた。
「そしたら嫌でも俺のことを思い出すだろうと思って」
「なんだ、そういうこと……。てっきり妙な趣味に目覚めたんだとばかり」
「はあ? んなわけねぇだろ」
菜々子は頬杖をついて窪川を見つめた。
「なに?」
「あなたのことをカッコいいと言ってる人をわたし、二人知ってるわ」
「それだけか?」
思わず手からアゴがずり落ちかけた。そうだった、こいつはこういうやつだ。

