そんなことを言われたら。
流れるに任せた涙が勢いをそがれて、次第に喉の痛みが引いていく。
と、菜々子の唇に、いつかの柔い感触が重なった。
(なによ、もう……)
抗えない自分に呆れた。
もういやと、力なく思う。
思考が鈍って、頭が回らない。
彼のキスひとつですべての調子が狂わされる。
「……そんな特典ついてない」
間近に留まる顔は二度目の態勢に入っていたが、恨めしげに指摘されて、仕方なさげに首をもたげる。
「いいだろこれくらい。これだって、そばにいるってことのひとつの形じゃんか」
「せっかく少し見直したところだったのに」
「それは残念だな。でも、俺がそばにいるってことはつまりこういうことも条件に含まれるってことだ」
「軽いのねぇ」
「健全て言えよ」
ふたたび窪川の顔が近づいてくる。
まったく――と、胸の内で息をつく。
けれどもはや、菜々子に逆らう意思はなかった。

