痛みを呑んで顔を上げた窪川は、次の瞬間、思いがけない光景にはっと瞠目した。
怒った菜々子の双眸から、うそみたいに涙が溢れていた。
「吉田……おまえ、そこまで俺のことが」
きらいなのか、と続けようとした窪川の落胆を、菜々子は先回りして読み取った。
「ちがう。嫌いなんじゃない」
菜々子はふらつくように一歩下がり、自身の口許で呟いた。
窪川が眉をひそめる。
「なんだって?」
「……だからっ、好きなのよ! ずっと前から。あなたのことが。あなたがわたしを思ってるその何倍も!」
「吉田」
窪川が近づく気配に、菜々子はすばやく手を上げてそれを制した。
「でも同時にわたしはあなたが憎い。好きでも、憎い。あなたと関わってることが、つらいのよ。純粋に、どちらか一方に傾けない自分が、しんどいの。だからよ……だからもう、関わらないでほしいって言ってるの」
「――どっちだっていい」
「は?」

