「うれしいよ……」
窪川の目に涙のようなものを見て取って、菜々子はとっさに顔を背けた。
もうこれ以上は。
怖くなる。
これ以上は踏み込めない。
わたしとこいつが描く未来に生産性はない。
誰も望まない。傷つけるだけ。
だからもうこれ以上、彼が覗かせるふとした情熱なんか、その片鱗だって見たくはない。
「吉田?」
跳ね上がる鼓動を押し隠す。
「――だからもう、これで終わりにして」
お願い。
結んだ唇がわななく。
もう、この人を好きでいることからも、憎むことからも、自由になりたい。
この人のことで、苦しい思いをしたくない。
だから。
「やだね」

