俺、おまえのことが好きなんだ
耳の奥、木霊する声を、雪を巻き込み唸る風が蹴散らしていく。
「好きなんだ……」
泣きそうに必死な顔が、逃げ腰になる菜々子をかろうじて現実に繋ぎとめる。
けれど、ともすれば意識は彼を突き放し、今にも安全なところへ隠れようとする。
こんなものはまやかしだ、またいつかの虚言だ、と。
またわたしを騙そうとしている。頭の奥で警鐘が鳴る。
そこに現実があると錯覚する。
やがて菜々子は色のない瞳を彼から逸らし、力いっぱい腕を振った。
「あ、そう」
歩き出した菜々子に、容赦なく、つぶてのような雪がぶつかってくる。
「本当だ! もうあの頃とはちがう! 俺は変わったし、これからも変わっていく。もっと努力する。おまえに相応しい男になるために、俺は過去の自分と決別したんだ!」
ちょうど、絵馬が連なる前で菜々子は立ち止まり、そして致命的なあることに気がついた。
どうしよう。
足が動かない。
帰ろう、帰らないとと、気持ちばかりが急いて、体がそれについてこない。
そうこうしているうちに窪川がすぐ後ろまで迫ってきた。ふるえる吐息が見える。
と、急に背後で座り込む気配を感じた。
意味がわからず、恐る恐る菜々子は後ろを振り返る――

