睦美は匡の制服を強くつかんだまま、


「あいつ、何も言いふらさなかったの?」

「言いふらしてたら、今頃、情報通のやつらが色めきたっておもしろおかしく学校中にリークしてるはずだ。それがないんだ。あいつは何もしてない」


だから、心配するな。

そう言うと、終始強張っていた睦美の顔がようやくほころんで見えた気がした。

長いこと睦美を追い込んでいた一番の懸案がなくなったことで、全身の力が抜けたのだと思う。

こんなことなら、もっと早く教えてあげるんだったな。


(俺も、もう関わらないとか、決め込んでたからな)


狭量だった。

あの日からしばらくは母に釘を刺されたこともあり、睦美を遠ざけていたことは否めない。

その間、無為に彼女を苦しめてしまっていたことを思うと、やりきれなかった。

おもむろに睦美が匡の前に回り、胸に頬を押しつけて来た。

拒める雰囲気ではなく、とりあえずされるがままにしておく。

ああ、これが吉田ならどれほどいいだろうと、ひそかに落ち込みながら。


「窪川って、中学のとき、なにかあったの?」

「あいつの言ったことか?」


ホテルで眼鏡が言っていた。


「わたしにお似合いとか何とか言ってたでしょ? なにしたの?」

「バカなことだよ。最低の悪ふざけだ」