「窪川、最近ときどき元気がない感じなんです」
「冬だからそう見えるだけでは?」
「どうかすると物思うような目をして宙を見つめてるんです。ね、心配でしょ?」
無視された。
負けじともう一度混ぜ返してみる。
「俺ってやっぱりいい男、って酔ってるだけじゃないんですか? ほら、バレンタインの余韻に」
「だからね、ちょっと話を聞いてやってくれないかなって。窪川も吉田さんなら本気で話ができるみたいだし」
なんだそれ。
「ごめんこうむります」
「えっ、なんでですか」
「確かに好きだとは言いましたけど、忘れないでください。わたしは彼がちゃんと嫌いでもあるんです。好きの裏返しとか、そんな可愛いものでもない」
「ならどうして好きなんですか。好きだから嫌いなんでしょ? いろいろ惑わされたり、苦しかったりするから。それなら結局好きってことじゃないですか」
「そういう少女マンガみたいなごたごたは勘弁してください。嫌いは嫌いなんです。どういう嫌いか言いましょうか」
自分ではほとんど凄む勢いで、目一杯感情を込めたつもりだが、それでも夏原は、そう言われても、という顔だった。

