「えっ」
「ライクじゃなくね」
「それは……そのまま受け取っていい意味ですか? それとも、嫌いすぎるという意味で?」
「前者です。秘密ですよ」
夏原はまたしてもぽかんと口を開けた。
しかし今度は心なしか頬がほのかに赤い。
「生意気で、口が悪くて、ムカつくこといっぱいの彼が好きです」
「そ、そすか」
「言わないですけど」
「なんでですか?」
「好きだけど、嫌いだから」
「ええ? なんすか、それ」
「わたし、面倒くさいんですよ」
すると、夏原は急に思い出したように言った。
「あ、だからあのときも窪川に強い口調で言ってたんですね」
「男の人に絡まれたときですか」
「はい。あれ、言われてみれば、そういう感情なしであそこまで窪川に言い返せないですよね。とくに吉田さんみたいな性格の人は」
やはり夏原は人の機微がわかる男なのだと、菜々子は思った。

