まだあなたが好きみたい


他人を受け入れないことで、傷つくことから自分を守ることにした「今の有正」になる前の自分。

人の話を聞いて、心を痛めて、自分の何がいけないのかをつたない頭で一所懸命に考えていたあの頃の自分に。

有正は戻って、そして、強くなろうとしているのだ。

真に、強い心を育てようとしている。

菜々子の頼みを諾々と聞いて守るのではなく、駄目なことは駄目だと断じて、そのうえで菜々子を守ることができる男になるんだと。

そう気づけば、そのような気概を菜々子はあの日、半ば朦朧としていた瞳の奥にたしかに見た気がする。

しかしそれでも。

それがたとえ有正のために少しでも役に立ったのだとしても、やはり、乱暴だったという悔いは残る。

どう前向きに取ろうとしても、晴れない気持ちは重く胸にのしかかる。


(有正……)


鬱屈と帰路を進んでいると、前方から不意に、あれ、という男の声がして、菜々子は顔を上げた。