有正はあの日以来、心なしかわたしと距離を置いている、気がする。
行きの電車は一緒でも、帰りはほとんどばらばらだ。
部活がある日はもちろん、ない日でさえ、近頃の有正は菜々子ではなく、同じ部活の男の子たちと肩を並べてシートに収まっている不思議。
はじめ菜々子は、有正が、"わたし"を敬遠しているのだと思っていた。
嫌な記憶を否が応でも呼び覚ますから。
でも、どうやらそうではないらしい。
そうわかったのは、今でも暇さえあればちゃんとわたしにくっついてきて他愛ない話ができるから。
彼は、変わろうとしているのだ。
菜々子は徐々に気がついた。
彼は、今回のことで、自分の気の弱さを痛感したのだ。
口では不遜なことを言って、いつも面の皮が厚い態度を取ってきたけれど、それだって結局は自分を守るための身ぐるみでしかなく、いくらできると暗示をかけてそれとなくやりきったとして、どうしたって心がついていかない。
自分の脆さに打ちのめされたことをきっかけに、有正はたぶん、思い出したのだ。
まだちゃんと、苦しみと対峙していた幼い自分と。

