有正が全快して一週間が経過した。
しかし有正は依然としてあの晩なにがあったのかを教えてはくれない。
子供でもできることだと、有正はそう言っていたけれど、それだけであんなに高い熱が出るほど怖い思いをしたというのは、一体どういうことなのだろう。
単に、慣れない”おつかい”を任されて、その重圧に思い詰めてしまっただけなのだろうか。
いや、有正はそこまで柔じゃないはずだ。
後ろ暗いことに加担させられたにちがいない。
菜々子はそう信じて疑わなかった。
なにしろ根が優しい男だから、意に添わない依頼を引き受けても良心の呵責で後悔して落ち込むに決まっている。
熱を出すのも無理はないのだ。
菜々子はぐっと唇を噛む。
このことは、わたしの一生の汚点だと、そう言わざるを得ない。
保身のために、大切な幼馴染を苦しめてしまった。
戻せるものなら時間をあの日に戻したい。
有正にすがっている自分を止められたら。
中学の頃の思い出なんて、もういい。
もういいから。
(わたしには、有正が一番大切な人なのに)

