「ぼくね、菜々ちゃん。自分がどれだけ弱い男かって、ようやくわかったんだ。今回、あの人に頼まれてしたことは、ほんとうになんでもないことだったんだ。ほんとうに、子供でもできることだった。それなのに……ぼくは……怖かったんだ。どうしようもなく、怖くなった。菜々ちゃんを守りたいと思った、ぼくにだってできると思った、なのに結局このザマだ。ぼく、自分が情けないよ。こんなことでいつも心を折られるんだ。あの頃からちっとも変わってない」
「それは有正が悪いんじゃない」
「ううん。ぼくがいつまで経っても弱虫だから、子供だから、だから簡単に傷つくんだ。口さがないおばさんの井戸端話にいちいち反応して、めそめそしてた、あの頃のぼくのまま。自分からは何も言えない、できない、臆病者。だからずっと、臭いものに蓋をして、みんなを見下してた。何かに本気になって、ぶつかって、それで受ける反動に耐えられるだけの覚悟なんてこれっぽっちもないのに、いい顔だけ、したかったんだ。菜々ちゃんにちょっとでも、恩を返したかったから。それなのに。またこんなふうに、バカみたいに悪化して、また菜々ちゃんに心配かけて」
有正の目と目の間を涙が伝った。
「そんな……」
「ねえ菜々ちゃん……ぼくね、昨日の夜、あいつに会ったんだよ」
「あいつ?」
有正は乱暴に目じりに溜まった涙を拭い取ると、
「窪川だよ」
とかすれた声で言った。

