「ぼ、ぼくはただ、あっちの道がいい感じだなって思ったから…!」

「風任せってか? ふざけるな。この真冬の、しかも夜に冒険だなんてバカでもしねぇぞ」

「ぼくに触らないで。腕が腐れる!」

「吉田の大事なやつを見捨てて風邪でも引かれたら、そんでそれを吉田が知ったらますます俺の立場がねぇじゃねぇか。すこしは俺にも顔を立たせられるよう協力しろよ」

「そんなことできるか! てかもう、離せったら!」


そう言って有正は力いっぱい腕を振り回すも、今度は匡がしかと握って離さなかった。

力では負けない自信がある。


「なんでだよ」

「菜々ちゃんにいいとこ見せるチャンスになるじゃんか。そんなのこのぼくが許さないぞ」

「ケチ」


有正はまたぞろ黙り込み、ほとんど引きずられるままについてくる。

その足取りの重さと定まらなさは、匡に引きずられていることの屈辱よりも、見えない何かに惑わされる中でこれ以上どこへも動きたくないという反発に由来しているような気がして、匡は眉をひそめた。

匡自身、かつて似たような経験をしたからわかる。

あの事件以来、仲間を裏切った形でひとり学校に残った匡も、そうだった。

起きてしまったことの重大さに戦き、人並みに落ち込んで、どうしていいかわからなくなった。