「近くにホテルがあっただろ。制服でもスルーされる隠れ家だ。そこにいたのか」
「は。なんでぼくがホテルに? 彼女もいないのに」
「彼女じゃなくてもやることはやれる」
有正の目が侮辱するように険しさを増した。
「……おまえ、顔だけじゃなく、やっぱり、中身までサイテーなんだな」
「誰と一緒にいたんだ」
「ぼくは駅からずっとひとりだ。今日は気分を変えて別の道を帰りたかっただけだ」
「このまま林を越えて隣町まで行って家に帰るのか? えらい道のりだな」
「おまえを撒こうとしたんだ」
「気づいてなかっただろ」
「見くびるなよ」
「ならもっと頭を使えよ」
「ストーカーごときに言われたくないね」
その口ぶりは生意気そのもので、ようやくいつもの調子を戻してきたかに思われたが、かと思うと急に俯いてしきりに目を瞬いたり額の汗を拭っている。
気が触れるすれすれのような様子を見れば、すこしも元に戻っていないことは明白だった。
この辺の地理に疎いのか、有正はきょろきょろとあたりを見回すと、どこか不安そうに歩き出す。
その腕を掴み、反対の方角へと誘った。
「帰り道もわからないのにふらふらするなよ」

